男どうしで十年、このソファに座ってきた。今夜はその間に、九歳の子どもの気配がまだ残っていた。
玉ねぎを炒める音だけが、部屋に満ちていた。
私は三十二歳になるまで、誰かのために夕食を作るとき、こんなに手が緊張したことはなかった。
隣の部屋では、ソウが九歳の女の子に話しかけている声がする。よく通る声だ。
初めて会う人間にも、ソウはああして笑えるのだと、十年近く隣にいても、少し羨ましいと思う。
「ハナちゃん、好きな食べ物とかある?」
「……べつに」
「そっかそっか。じゃあ嫌いなものは?」
返事が聞こえなかった。私は黙って火を弱めた。
三人で食卓を囲んだのは、七時を少し過ぎたころだった。
肉じゃがと、味噌汁と、白いご飯。ハナは椅子に浅く座って、最初の一口をゆっくり口に運んだ。
私はそれを、見ていないふりをして見ていた。小さな手が、箸を握っている。
ソウがよくしゃべった。学校のこと、近所のこと、自分が子どものころ好きだったテレビのこと。
三十一歳の男が、九歳の女の子に向かって一生懸命に話している。私は黙って味噌汁を飲んだ。
食事が終わると、ハナは「ごちそうさまでした」と小さく言って、自分の皿を台所に運んだ。
教えてもいないのに。私は「ありがとう」と言いそびれた。
ハナが布団に入ったあと、二人はソファに並んで座った。男どうしで十年、このソファに座ってきた。
今夜はその間に、九歳の子どもの気配がまだ残っていた。
「うまくいくかな」とソウが言った。
私は答えなかった。台所に目をやると、三枚の皿が重なって置いてあった。自分たちの二枚に、もう一枚。
それだけのことが、今夜はやけに重く見えた。
窓の外で、風が鳴った。
