LGBTの同性愛カップルである私たちが里親としてこの子にできることと、できないことの境界線
ユイが「ちがう」と言ってから、一週間が経った。
その間、卵焼きの話は誰もしなかった。
ミオは毎朝違うものを作った。
スクランブルエッグ、目玉焼き、ふわふわのオムレツ。
どれもおいしかった。
ユイは毎朝きれいに食べた。
でも、あの遠い目をするときが、まだあった。
土曜の午後、ミオが仕事に出かけた。
家にユイと二人になった。
私はデスクで作業をしていたが、画面に集中できなかった。
リビングでユイが絵本を読んでいた。
ページをめくる音が、静かに聞こえた。
一時間くらい経ったころ、私はデスクを離れた。
リビングに行って、ユイの隣にそっと座った。
ユイが絵本から顔を上げた。
私を見た。
私は少し間をおいてから言った。
「前のおうちの卵焼き、どんな味だったか教えてくれる?」
ユイはすぐには答えなかった。
絵本を閉じて、膝の上に置いた。
窓の外を見た。
六歳の女の子が、何かを思い出そうとするときの顔をした。
「あまかった」
「甘かったんだね」
「うん。
それと、なんか、だしみたいなのも入ってた」
「だし巻き卵みたいな感じ?」
ユイが少し考えた。
「わかんない。
でもおいしかった」と言った。
それから小さく続けた。
「はしっこが、ちょっと焦げてた」
私は全部、日記帳に書き留めた。
甘い。
だしが入っている。
端が少し焦げている。
毎朝作っていた。
それだけだった。
でもユイが話してくれたことが、今日の私には十分すぎるほどだった。
「ありがとう、教えてくれて」と私は言った。
ユイはまた絵本を開いた。
それだけだった。
夜、ミオが帰ってきてから、書き留めたことを見せた。
ミオは読みながら「よし」と言って、スマートフォンでレシピを調べ始めた。
二十六歳の女が、カフェの仕事で疲れて帰ってきたのに、台所に立った。
私も隣に立った。
一回目は甘さが足りなかった。
二回目はだしが強すぎた。
三回目、ミオが卵液に砂糖をもう少し足して、火加減を少し弱めた。
焼き始めると、甘い匂いが台所に広がった。
巻き終わりの端が、少し焦げた。
ミオが「あ」と言いかけた。
私は「そのままにして」と言った。
皿に乗せて、二人で一口ずつ食べた。
「近いかも」とミオが言った。
私はまだ足りない気がした。
でも何が足りないのか、言葉にできなかった。
ユイの前の家庭の台所の温度も、その朝の光も、卵焼きを作っていた手の大きさも、私たちには永遠にわからない。
LGBTの同性愛カップルである私たちが里親としてこの子にできることと、できないことの境界線が、今夜の台所にはっきりと見えた。
でも近づこうとすることを、やめたくなかった。
日記を開いて、今夜のことを書いた。
最後にユイが話してくれた言葉を、もう一度書き写した。
あまかった。
だしみたいなのも入ってた。
はしっこが、ちょっと焦げてた。
この三行が、今夜の私たちの地図だと思った。