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合言葉を失った

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里親応援2-5 朝食の席で、子供の里親という扉を開けた

恵子の家から帰った翌朝、目が覚めたのはいつもより早かった。

窓の外がまだ暗かった。

布団の中で天井を見ていた。

哲也の寝息が聞こえた。

昨夜も眠れない時間があって、でも昨夜とは少し違った。

もやもやしていたのではなく、何かを決めようとしていた。

六時になって、布団から出た。

台所に降りて、お湯を沸かした。

ガスの火が青く灯って、やかんが温まり始めた。

冷えた台所に、少しずつ暖かさが戻ってきた。

窓の外が白み始めていた。

鳥の声が一つ、遠くで鳴いた。

哲也が階段を降りてくる音がした。

「早いな」
哲也が台所の入口に立って言った。

頭が少し寝癖になっていた。

私はお湯が沸いたやかんを持ちながら、振り向いた。

「ねえ、子供の里親って知ってる?」
声に出してから、自分でも驚いた。

今朝言おうと決めていたわけではなかった。

やかんを持ったまま、口から出ていた。

哲也は少し目を細めた。

椅子を引いて、テーブルに座った。

「聞いたことはあるけど、詳しくは知らない」
「そう」
私はお茶を二つ淹れて、哲也の向かいに座った。

湯気が細く立ち上った。

窓の外が、だんだん明るくなっていた。

話し始めた。

京都の旅館で感じた「静かすぎる」という感覚のこと。

恵子が里親をしていると知ったこと。

健太という男の子がいること。

いびつな形のクッキーのこと。

健太の「ふうん」という声のこと。

この数週間、一人でこっそり調べていたこと。

哲也に言えなかった理由が自分でもよくわからなかったこと。

順序はめちゃくちゃだったと思う。

同じことを二度言った気もする。

でも哲也は途中で口を挟まなかった。

お茶を両手で持って、私の顔を見ていた。

話し終えて、お茶を一口飲んだ。

冷めていた。

しばらく、二人とも黙っていた。

外で車が一台通り過ぎた。

鳥の声が増えていた。

台所に朝の光が入り始めて、テーブルの上が白くなった。

「俺たちにもできるかな」
哲也が言った。

反対ではなかった。

賛成でもなかった。

ただ、一緒に考えようという言葉だった。

二十六年間隣にいた人の声で、私にはそれがわかった。

「わからない。でも、知りたいとは思ってる」
「じゃあ、まず知ろう」
哲也がそう言って、スマホを取り出した。

私も自分のスマホを出した。

「里親 説明会」と打ち込んだ。

来月、市の福祉センターで開催される説明会があった。

日時と場所が書いてあった。

参加費は無料で、事前申し込みが必要だった。

「ここ、行ってみるか」
哲也が画面を私に向けた。

私は覗き込んだ。

来月の第二土曜日だった。

「行ってみようか」
私は言った。

申し込むボタンを押したわけではなかった。

まだそこまでは決めていなかった。

でも二人で同じ画面を見ていた。

哲也の肩が、私の肩に触れていた。

窓の外が完全に明るくなっていた。

朝食の支度を始めた。

冷蔵庫から卵を出して、フライパンを火にかけた。

バターが溶けて、甘い匂いが台所に広がった。

恵子の家で食べたクッキーの匂いに、少し似ていた。

目玉焼きを皿に移して、テーブルに並べた。

二人分の食器が、テーブルの上に揃った。

「いただきます」
二人で手を合わせた。

静かだった。

でも今朝の静けさは、京都の旅館の夜とは違った。

何かが足りない静けさではなく、何かが始まる前の静けさだった。

私はまだ何も決めていない。

里親になると決めたわけでも、説明会に申し込んだわけでも、人生の針を動かすと決めたわけでもなかった。

ただ、子供の里親という言葉が、今朝初めて自分の声で口から出た。

それだけのことが、胸の中で思ったより大きく、温かかった。

哲也が卵を崩した。

黄身が広がった。

窓の外で、鳥がまた鳴いた。


隊士 お館様管理者

藤の里における鬼倒隊を統率している者。私が初めて鬼の存在を知ったのは、ボランティアの場でした。 里親制度への無知と誤解という鬼が、日本中に蔓延していること。そのせいで、家庭で暮らせずにいる子どもたちがいること。里親になりたくても、なれずにいる人たちがいること。 その現実が、忘れられませんでした。 それからも何度もボランティアを重ねるたびに、鬼の大きさを思い知らされました。 私自身は里親経験者ではありません。 剣を持って戦える立場にはない。 だからこそ、実際に戦ってきた方々の記録を集め、次の誰かへ届ける場所を作ることが、私にできる戦いだと思いました。 藤の里は、その使命のために生まれました。 あなたの戦いの記録を、ここに刻んでください。 その呼吸を、次の世代へつないでいきましょう。

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