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合言葉を失った

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里親応援1-2 スマホの画面が、勝手に流れていく

翌朝、誠一を送り出したあとの家は、いつもより広く感じた。

玄関のドアが閉まる音がして、私は台所に戻った。

テーブルの上には、誠一が飲みかけのまま置いていったコーヒーカップがあった。

縁に口紅もついていない、ただの白いカップ。

私はそれを流しに運んで、お湯で軽く流した。

排水口に消えていくコーヒーの匂いが、朝の台所にしばらく残った。

洗濯機を回して、掃除機をかけて、昼前には座るものがなくなった。

ソファに腰を下ろして、スマホを手に取る。

特に見たいものがあったわけではない。

ただ手が先に動いた。

SNSのアプリを開くと、画面が自動的に流れ始めた。

知人の旅行写真、料理の動画、誰かが怒っている長い文章。

私は親指を動かし続けた。

何も引っかかってこない。

どのくらい経ったころだろう。

画面がふと、止まった。

正確には、私の親指が止まった。

知らない女性のアカウントだった。

アイコンは小さな花の絵。

投稿は写真もなく、文章だけだった。

「今日、初めて『おかえり』って言ってもらえた。

それだけで、今日はもういい」
短い文章の下に、里親として小学生の女の子を迎えて三ヶ月、とあった。

私は画面を拡大したわけでも、いいねを押したわけでもなく、ただその文章を何度か読み返した。

「おかえり」という言葉が、目の中で何度も光った。

翔太が中学生のころ、部活から帰ってくるたびに玄関で言っていた言葉と、同じだった。

泥のついたシューズを脱ぎ散らかして、返事もせずにそのまま二階へ上がっていく背中に、それでも私は毎日「おかえり」と言っていた。

あの言葉を、誰かが初めて受け取った日のことを、この人は書いている。

私はしばらくそのままでいた。

ソファの背もたれが、肩甲骨のあたりに当たっていた。

エアコンの風が足元をかすめた。

フォローボタンに指が近づいて、止まった。

なぜ止まったのか、うまく説明できない。

感動したのは本当だった。

でも同時に、どこかに薄い壁があった。

この人の話は、自分とは別の世界の話だという感覚。

里親というものが何なのか、私はよく知らない。

知らないまま、フォローだけするのが、なんとなく失礼な気がした。

私はアプリを閉じた。

スマホをテーブルに置いて、窓の外を見た。

洗濯物が風に揺れていた。

翔太のものは一枚もない、私と誠一の二人分だけの洗濯物が、秋の光の中で静かに揺れていた。

里親。

声には出さなかった。

でも頭の中で、その言葉を一度、ゆっくりとなぞった。

自分の口の形を確かめるみたいに。

知っているようで、何も知らない言葉だと気づいた。

洗濯機の終了を知らせるブザーが、台所の奥で鳴った。

私は立ち上がって、スマホをソファに残したまま、洗濯物を取りに行った。


隊士 お館様管理者

藤の里における鬼倒隊を統率している者。私が初めて鬼の存在を知ったのは、ボランティアの場でした。 里親制度への無知と誤解という鬼が、日本中に蔓延していること。そのせいで、家庭で暮らせずにいる子どもたちがいること。里親になりたくても、なれずにいる人たちがいること。 その現実が、忘れられませんでした。 それからも何度もボランティアを重ねるたびに、鬼の大きさを思い知らされました。 私自身は里親経験者ではありません。 剣を持って戦える立場にはない。 だからこそ、実際に戦ってきた方々の記録を集め、次の誰かへ届ける場所を作ることが、私にできる戦いだと思いました。 藤の里は、その使命のために生まれました。 あなたの戦いの記録を、ここに刻んでください。 その呼吸を、次の世代へつないでいきましょう。

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