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合言葉を失った

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里子出身#1-4 里親家庭で育った私の経験は、施設で育った人の経験とは違う。それは優劣の話ではない。

オンラインイベントに参加したのは、悠と会ってから二週間後だった。

名刺をもらったNPOが主催する「社会的養護経験者の集い」で、月に一度開かれているオンライン交流会だった。

参加は無料で、申し込みフォームに名前とメールアドレスを入れるだけでよかった。

送信ボタンを押すのに、三日かかった。

当日、時間になってZoomを開いた。

画面に、十二人の顔が並んだ。

主催者の男性が簡単な説明をして、自己紹介の時間になった。

一人ずつ、名前と出身を話していった。

施設の名前を言う人、県の名前だけ言う人、「施設出身です」とだけ言う人。

私の番が来た。

「橘凛です。二十六歳です。里親家庭の出身で、今はWebデザインの仕事をしています」
「ありがとうございます」と主催者が言って、次の人に移った。

それだけだった。

話題は自然と、施設での経験に移っていった。

門限の話、担当職員との関係、アフターケアの充実度。

みんな、具体的に話した。

経験を共有する言葉を、すでに持っている人たちだった。

私は聞いていた。

頷きながら、相槌を打ちながら、でも話の輪に入れなかった。

施設の話は、私の経験とは重ならなかった。

集団生活をしたことがない。

担当職員という存在を知らない。

十八歳で突然外に出されることへの恐怖も、経験していなかった。

「里親家庭の方、今日いらっしゃるんですね」
途中で、参加者の一人が言った。

三十代の女性だった。

画面越しに、私の顔を見ていた。

「はい」と私は答えた。

「里親家庭って、どんな感じなんですか?やっぱり施設より家庭的な感じですか?」
悪意のない質問だった。

純粋に知りたいと思っているのが伝わった。

でも「施設より家庭的」という比較の枠が、私にはうまく答えられなかった。

「そうですね、家庭的ではあったと思います」と私は言った。

それ以上、言葉が出なかった。

イベントが終わって、Zoomを閉じた。

部屋が急に静かになった。

画面の明かりだけが、暗い部屋を照らしていた。

スマートフォンに、悠からLINEが来ていた。

「どうだった?」
しばらく考えてから「なんか、うまく入れなかった」と返した。

少し間があって、悠から返信が来た。

「わかる気がする」
わかる気がする、という言葉が、少し意外だった。

施設出身の悠が、なぜわかるのか。

でも理由を聞く気にはなれなかった。

ただ「そっか」と返して、スマートフォンを置いた。

天井を見た。

施設出身者のコミュニティで、私は場の外にいた。

里親家庭にいたことを言うと、少し空気が変わった気がした。

特別扱いされた、というわけではない。

ただ、話題の中心から少しずれたところに、自分がいた。

かといって、里親家庭出身者だけが集まるコミュニティは、見当たらなかった。

社会的養護経験者というカテゴリの中に、こんなに多様な経験があるとは、参加するまで考えていなかった。

施設にも種類がある。

里親にも種類がある。

一時保護だけの人もいる。

ファミリーホームで育った人もいる。

同じ言葉の傘の下に、全然違う経験が集まっていた。

それは当然のことだったかもしれない。

でも当然のことを、今日初めて実感した。

里親家庭で育った私の経験は、施設で育った人の経験とは違う。

それは優劣の話ではない。

ただ、違う。

その違いを、誰かと共有したことがなかった。

共有する相手を、まだ見つけていなかった。

窓の外に、夜の街の明かりが見えた。

どこかに、同じ場所に立っている人がいるだろうか。

里親家庭で育って、施設出身者のコミュニティにも馴染めなくて、でも自分の経験を誰かと共有したいと思っている人が。

いるかもしれない、と思った。

いないかもしれない、とも思った。

どちらかわからないまま、その夜も、なかなか眠れなかった。


隊士 お館様管理者

藤の里における鬼倒隊を統率している者。私が初めて鬼の存在を知ったのは、ボランティアの場でした。 里親制度への無知と誤解という鬼が、日本中に蔓延していること。そのせいで、家庭で暮らせずにいる子どもたちがいること。里親になりたくても、なれずにいる人たちがいること。 その現実が、忘れられませんでした。 それからも何度もボランティアを重ねるたびに、鬼の大きさを思い知らされました。 私自身は里親経験者ではありません。 剣を持って戦える立場にはない。 だからこそ、実際に戦ってきた方々の記録を集め、次の誰かへ届ける場所を作ることが、私にできる戦いだと思いました。 藤の里は、その使命のために生まれました。 あなたの戦いの記録を、ここに刻んでください。 その呼吸を、次の世代へつないでいきましょう。

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