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合言葉を失った

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里親応援1-3 検索した言葉を、誰にも言わなかった

翌朝、誠一を送り出してから、私はいつものように洗い物をした。

それから洗濯機を回して、濡れた衣類をベランダに干した。

一枚ずつ伸ばして、シワを伸ばして、ピンチで留める。

その間ずっと、昨日のあの投稿の言葉が頭の中に残っていた。

「今日、初めて『おかえり』って言ってもらえた」
台所に戻って、テーブルの前に座った。

スマホを手に取って、検索画面を開いた。

少し迷ってから、「里親制度」と打ち込んだ。

最初に出てきたのは行政のページだった。

文字が小さく、図表が多く、読み進めるうちに目が滑った。

次に開いたNPOのサイトは、写真が多くて読みやすかった。

里親にはいくつかの種類があること、養子縁組とは違うこと、子どもが家庭に戻ることを前提としているケースが多いこと。

私はそれを、メモも取らずにただ読んだ。

知らないことばかりだった。

施設で暮らしている子どもが、今この国に約四万人いるという数字が出てきた。

私は一度画面から目を離して、窓の外を見た。

近所の公園で、小学生が二人、鉄棒で遊んでいた。

四万という数字が、うまく実感できなかった。

読み続けた。

里親登録をしている家庭の数が足りていないこと。

登録しても実際に子どもを迎えるまでに時間がかかること。

子どもが里親家庭に慣れるまでの難しさを、経験者が率直に書いているブログを見つけた。

うまくいかない日のことも、包み隠さず書いてあった。

私はそのページをゆっくり読んだ。

きれいな話ではなかった。

でも、だからこそ途中でやめられなかった。

気づいたら、二時間が過ぎていた。

台所の窓から入る日差しが、テーブルの端まで伸びていた。

お腹が空いているのに、立ち上がるのが惜しかった。

昼過ぎに誠一から「今夜は少し遅くなる」とメッセージが来た。

私は「わかった」と返した。

それからまたスマホの画面に戻った。

今度は体験談を読んでいた。

里親として子どもを迎えた四十代の夫婦の話。

最初の一週間、子どもが一言も喋らなかったこと。

ある朝、黙ったまま隣に座ってきたこと。

その重さが、嬉しかったと書いてあった。

私は画面を閉じて、冷蔵庫を開けた。

昨日の残りのご飯で、簡単に昼食を済ませた。

食べながら、さっき読んだ夫婦のことを考えていた。

夕方、誠一が帰ってきた。

「今日何してた?」
コートを脱ぎながら、誠一が聞いた。

いつもの、特に答えを求めていない声だった。

「特に何も」
私は答えた。

嘘をついたわけではない。

家事をして、座っていただけだ。

でも、その「何も」の中に、今日読んだすべてが入っていた。

里親制度のこと、四万人という数字のこと、隣に座ってきた子どものこと。

それを誠一に話す言葉が、まだ自分の中に見つからなかった。

夕食の支度をしながら、玉ねぎを切った。

目が滲んだ。

玉ねぎのせいだった。

それだけのことなのに、私はしばらく包丁を止めて、換気扇の音を聞いていた。


隊士 お館様管理者

藤の里における鬼倒隊を統率している者。私が初めて鬼の存在を知ったのは、ボランティアの場でした。 里親制度への無知と誤解という鬼が、日本中に蔓延していること。そのせいで、家庭で暮らせずにいる子どもたちがいること。里親になりたくても、なれずにいる人たちがいること。 その現実が、忘れられませんでした。 それからも何度もボランティアを重ねるたびに、鬼の大きさを思い知らされました。 私自身は里親経験者ではありません。 剣を持って戦える立場にはない。 だからこそ、実際に戦ってきた方々の記録を集め、次の誰かへ届ける場所を作ることが、私にできる戦いだと思いました。 藤の里は、その使命のために生まれました。 あなたの戦いの記録を、ここに刻んでください。 その呼吸を、次の世代へつないでいきましょう。

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