学校や遊びでの出来事を楽しそうに話してくれるようになり、一緒に笑える瞬間が少しずつ増えてきた
きっかけは、テレビのドキュメンタリー番組だった。
家庭の事情で親と一緒に暮らせない子どもたちがいること、そしてそうした子どもたちを家庭で育てる里親という制度があることを、そこで初めて知った。
制度を知ってからも、すぐには動けなかった。
子どもの人生に関わることだから、中途半端な気持ちで踏み込んではいけないという思いが強かった。
実際の生活の中でどこまで受け入れられるのか、家族の理解と協力が得られるのか。自分一人では決められないことばかりだった。
家族と何度も話し合いを重ねながら、少しずつ気持ちを整理していった。
背中を押したのは、説明会で聞いた現役里親の言葉だった。悩みながらも子どもと向き合い続けているその姿に共感した。
「すべてを完璧にしてあげる必要はなく、安心できる居場所をつくることが大切」
この言葉が、それまで感じていた「自分に務まるのだろうか」という重さを、少し軽くしてくれた。
子どもが来た最初の頃、こちらが声をかけても小さくうなずく程度で、表情はどこか固かった。
食事のときも遠慮しているようで、「本当に食べていいの?」といった様子が見えた。
夜もなかなか寝付けない日があり、家の中では静かに過ごしながらこちらの顔色をうかがっているように感じる場面も多かった。
新しい環境への不安と戸惑いが、子どもの全身から伝わってきた。
最もきつかったのは、突然泣き出したり怒りをぶつけてきたりする場面への対応だった。
「自分の対応は正しいのか」「子どもを傷つけてしまうのではないか」
そのたびに不安が押し寄せ、精神的に疲弊する瞬間があった。
夜中に泣いて呼ばれることが続き、寝不足が重なって体力的にも限界に近い日もあった。
変化は、日常の小さなやり取りの中に現れた。
学校や遊びでの出来事を楽しそうに話してくれるようになり、一緒に笑える瞬間が少しずつ増えてきた。
最初の頃の緊張と距離感が解けていくのを、日々のやり取りの中で感じた。
信頼関係というものは、特別な出来事によって生まれるのではなく、何でもない日常の積み重ねの先にあるのだと実感した。
職場では、直属の上司とチームメンバーにだけ事前に相談した。
「家庭で新しい子どもを受け入れるので、最初のうちは時間に変動があるかもしれない」と率直に伝えたことで、勤務時間の調整や休暇取得に柔軟に対応してもらえた。
子どもに安心できる環境を保ちながら、自分たちの生活も守るために、職場への事前の相談は欠かせない準備だったと感じている。
里親を考えている人へ伝えたいのは、最初の緊張や戸惑いは誰にでもあるということだ。
完璧を目指す必要はなく、子どものそばにいて寄り添うことが出発点になる。
少しずつ信頼関係が築けたときの喜び、日常の中でふと見せてくれる笑顔。それは、どんな言葉でも言い表せないものだ。
里親になる前の自分に一言かけるとしたら、「迷わずまず一歩を踏み出してみなさい」と言いたい。
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言の葉を届けるには入隊するか里に入る必要があります。