最初に気になったのは、単純な疑問だった。シングルでも里親になれるのか。

任務報告

離婚して3年が経った頃、ふとした夜に里親制度のことを調べ始めた。

子どもが欲しいという気持ちは以前からあったが、再婚を前提にしたくはなかった。

誰かと一緒でなければできないことと、一人でもできることの境界線を、その頃よく考えていた。

里親制度のページを開いたのは、そういう夜だった。

最初に気になったのは、単純な疑問だった。シングルでも里親になれるのか。

調べると、法律上は婚姻の有無は問わないと分かった。ただ、実際に一人で子どもを預かっている人の話がなかなか見つからなかった。

モデルケースが見えない中で、自分がその最初の一歩を踏み出せるのかどうか、しばらく迷った。

児童相談所に相談の電話を入れたのは、調べ始めてから半年後だった。

担当者は「シングルの方も里親登録されています」と当たり前のように言った。

その一言で、ずっと感じていた「例外的な申請をしているのかもしれない」という居心地の悪さが消えた。

周囲からは心配する声もあった。

「一人で大丈夫?」「何かあったときに頼れる人はいるの?」仕事をしながら、子どもの急な呼び出しにも対応できるのか。

体調を崩したときはどうするのか。確かにその不安は本物だった。

ただ、一人であることには別の側面もあった。夫婦間で方針が食い違うことがない。

誰かと合意を取らなくても、自分の判断で動ける。子どもへの接し方も、ルールの決め方も、全部自分で決められる。

その自由さが、むしろ子どもにとってシンプルで分かりやすい環境をつくれるのではないかと、次第に思えるようになった。

委託されたのは小学1年生の女の子だった。人見知りが強く、最初の一週間はほとんど声を出さなかった。

食事のときも、お風呂のときも、こちらの様子をじっと観察しているようだった。

二人きりの家は、静かだった。それが心地よい静けさなのか、張り詰めた静けさなのか、最初は判断できなかった。

仕事から帰って夕食を作り、二人で食べて、宿題を見て、寝かしつける。その繰り返しの中で、少しずつ会話が生まれていった。

一人であることが、むしろ良かった場面もあった。二人きりだからこそ、子どもの小さな変化に気づきやすかった。

今日は少し多くしゃべった、今日は自分から手を洗いに行った、今日は笑った。

そういう細かな変化を、誰かと共有しなくても自分の中で積み重ねていけた。

最もきつかったのは、子どもが高熱を出した夜だった。38度を超えて、夜中に何度も目が覚める。

氷枕を取り替えて、水を飲ませて、体温を測る。それを繰り返しながら、ふと「もし私が倒れたら」と考えた。

一人であることの孤独が、その夜だけ重くのしかかった。翌朝、熱が下がったとき、子どもが「ありがとう」と言った。

か細い声だったが、はっきり聞こえた。それまで「ありがとう」を自分から言ったことがなかった子だった。

しんどかった夜の分が、その一言で報われたような気がした。

委託から8ヶ月が経った頃、子どもが「お母さん」と呼んだ。

それまでは名前で呼んでいた。自分もそれを自然なことだと思っていたし、無理に呼ばせようとも思っていなかった。

その日は学校から帰ってきて、玄関で靴を脱ぎながら、何気なく「お母さん、ただいま」と言った。

子ども自身も、少し驚いたような顔をした。こちらも何も言えなかった。ただ「おかえり」と返した。それだけだった。

その夜、子どもが眠った後に一人で泣いた。誰かに報告する相手もいなかったが、それでよかった。あの瞬間は、二人だけのものだったから。

職場には、直属の上司にだけ里親であることを伝えた。

急な発熱や学校行事での早退があることを事前に話しておかないと、子どもに何かあったときに動けない。

上司は「分かった、できる範囲で調整しよう」と言ってくれた。それ以上でも以下でもなかったが、十分だった。

一番困ったのは、学童の問題だった。里親家庭であることを学童の担当者に伝えるかどうかで悩んだ。

結局、事情を説明した。対応は思っていたより丁寧で、子どもへの余計な詮索もなかった。

事前に伝えることへの恐れが、実際より大きかったと後から感じた。

一人で里親をすることは、想像より孤独ではなかった。もちろん誰かと話し合えたらと思う場面もあった。

しかし一人だからこそ、子どもと真正面から向き合う時間が持てたとも思う。

里親を考えているシングルの人に伝えたいのは、「パートナーがいないこと」は里親になれない理由にはならないということだ。

むしろ、二人でなくとも家庭はつくれる。大切なのは人数ではなく、その子どもの安心できる場所になれるかどうかだと、今は思っている。

里親になる前の自分に一言かけるとしたら、「一人でも、ちゃんとできるよ」と言いたい。

言の葉( コメント )を届ける