同性愛者である私たちのもとに来てくれたこの子が、暗闇の中で私の腕を選んでくれた、と思った。
午前2時過ぎ、声で目が覚めた。
最初は夢の中の音だと思った。
でも目を開けると、廊下のほうから細い声が聞こえていた。
泣き声、だった。
くぐもっていて、抑えようとしているような、小さな泣き声。
私は布団を出た。
廊下は冷えていて、フローリングが足の裏に冷たかった。
パートナーはまだ眠っていた。
彼女の部屋のドアの前に立って、息を整えた。
ノックしようとして、やめた。
そっとドアを開けた。
豆電球だけがついていた。
彼女は布団の中で膝を抱えていた。
顔を膝に埋めて、肩が小さく震えていた。
部屋の中に、かすかに汗の匂いがした。
「大丈夫?」
声をかけると、震えが一瞬止まった。
顔は上げなかった。
私はそのまま、彼女の隣に座った。
布団の上に、そっと腰を下ろした。
しばらく何も言わなかった。
泣き声が少しずつ小さくなっていった。
部屋の外で、風の音がしていた。
どこか遠くを車が通る音も聞こえた。
私は膝の上に手を置いて、ただ座っていた。
それから彼女は顔を上げないまま、私の腕をつかんだ。
小さな手だった。
力は強かった。
爪が少し食い込むくらい、ぎゅっとつかんでいた。
私は動かなかった。
腕をつかまれたまま、そのままでいた。
どのくらい時間が経ったかわからない。
彼女の呼吸がゆっくりになって、手の力が少しずつ抜けていった。
眠ったのだと思った。
私はそっと腕を引いて、布団をかけ直した。
前髪が額に張り付いていたので、指でそっとよけた。
熱はなかった。
ただ、泣き疲れた顔だった。
朝まで、床に座っていた。
背中が痛かった。
でも立てなかった。
朝になった。
彼女はいつも通りに起きて、いつも通りにトーストを食べて、ランドセルを背負った。
私は台所でコーヒーを入れていた。
玄関で「行ってきます」と言う声が聞こえた。
ドアが開く音がした。
それから、少しだけ間があった。
振り返る気配がした。
ドアが閉まる音がした。
それだけだった。
ありがとうは、なかった。
説明もなかった。
夜のことには、何も触れなかった。
私はコーヒーカップを両手で包んで、温度を確かめるようにしばらく持っていた。
正直に書く。
あの夜、腕をつかまれた瞬間、里親になってよかったと思った。
LGBTのカップルでも、この子の「助けて」を受け取れた、と思った。
同性愛者である私たちのもとに来てくれたこの子が、暗闇の中で私の腕を選んでくれた、と思った。
でも翌朝の日記に、きれいなことだけを書くつもりはない。
私はまだ、ありがとうの一言がほしい。
看病したときも、お弁当を作ったときも、夜中に隣で座っていたときも。
言葉がほしかった。
たった一言でよかった。
それが本音で、それを恥ずかしいとは思わない。
感動した夜だった。
それも本当だ。
でも私はまだ、満たされていない。
その両方が、今夜の私の中にある。
コーヒーが、少しずつ冷めていった。
言の葉( コメント )を届ける
言の葉を届けるには入隊するか里に入る必要があります。