子どもなんて残す。 わかってる。 でも正直に書く。 傷ついた。
水曜日の朝、学校から電話が来た。
「お熱が38度4分あります。お迎えをお願いできますか」
受話器を置いて、時計を見た。
午後2時。
会議まであと1時間あった。
私はパソコンを閉じて、上着を取った。
学校の保健室に入ると、彼女はベッドの端に体育座りをしていた。
顔が赤く、目がとろんとしていた。
私を見ても、表情は動かなかった。
「帰ろう」と言うと、ゆっくり立ち上がって、黙って私の後ろをついてきた。
コンビニでスポーツドリンクを買った。
レジ袋がかさかさと鳴る音を聞きながら、私は「好きな味ある?」と聞いた。
彼女は少し考えて、「どれでもいい」と言った。
家に帰って、布団を敷いて、ドリンクをコップに注いで枕元に置いた。
彼女はそのまま横になって、すぐに目を閉じた。
寝息が小さく聞こえ始めるまで、5分もかからなかった。
夜中に2回、熱を測った。
1回目は38度9分。
額に手を当てると、じんわりとした熱が手のひらに伝わってきた。
濡れタオルを作って、そっと額に乗せた。
彼女は薄く目を開けて、また閉じた。
何も言わなかった。
2回目は午前3時。
37度2分。
少し下がっていた。
私はそっと布団をかけ直して、自分の部屋に戻った。
廊下が冷たかった。
翌朝、彼女はケロッとしていた。
トーストを半分食べて、ランドセルを背負って、「行ってきます」と言って玄関を出た。
ドアが閉まる音だけが残った。
ありがとう、は一言もなかった。
その3日後、お弁当を持たせた。
運動会の代休で給食がない日だった。
前夜から卵焼きを巻いて、ミニトマトを洗って、好きだと言っていたから唐揚げも入れた。
彼女は「うん」とだけ言って受け取った。
夕方、弁当箱が戻ってきた。
開けると、唐揚げが2個残っていた。
「なんで残したの」と聞くと、「お腹いっぱいだった」と彼女は言った。
それだけだった。
私はふたを閉めて、流しに持っていった。
お湯をかけながら、なんでこんなに傷ついているんだろうと思った。
残しただけだ。
子どもなんて残す。
わかってる。
でも正直に書く。
傷ついた。
夜、パートナーに話した。
「なんか最近しんどくて」と言うと、「気にしすぎじゃない?」と返ってきた。
笑いながら。
悪気はないとわかっていた。
それでも、その言葉がするりと胃の中に落ちて、冷たく沈んだ。
LGBTのカップルが里親になると決めたとき、二人でいれば大丈夫だと思っていた。
同性愛のパートナーがいるから、一人じゃないと。
でも今夜は、一人だった。
電気を消したあと、天井を見ていた。
暗闇の中で、唐揚げの匂いだけがまだ少し、手に残っていた気がした。
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