わかり合えない孤独感
LGBTのカップルが里親になるとき、支援員さんに「役割を決めすぎないように」と言われた言葉を、今さら思い出した。
土曜日の夕方、三人でスーパーに行った。
パートナーが「お菓子、一個だけ選んでいいよ」と言うと、彼女は少しだけ顔を上げた。
お菓子売り場の前で、二人が並んで棚を眺めていた。
彼女がグミを手に取って、パートナーに見せた。
パートナーが「それ美味しいよね」と言うと、彼女は小さく笑った。
私はカートを押しながら、その横顔を見ていた。
笑うんだ、と思った。
家に帰って、夕食の準備をしながらリビングを見ると、パートナーと彼女がソファで肩を並べてテレビを見ていた。
彼女がパートナーの腕に少しだけ寄りかかっていた。
パートナーは気づいていないのか、そのままバラエティ番組を笑って見ていた。
私はにんじんを切った。
まな板の音が、やけに大きく聞こえた。
夕食のあと、パートナーが洗い物をすると言った。
珍しかった。
「いいよ」と言ったら「たまにはやる」と笑って、蛇口をひねった。
彼女はもう自分の部屋に入っていた。
リビングに私一人が残された。
ソファに座って、さっき彼女が寄りかかっていた場所をぼんやり見た。
なぜパートナーには笑うのか。
なぜ私には笑わないのか。
毎日ごはんを作っているのは私だ。
送り迎えをしているのも、夜中に熱を測ったのも、お弁当を作ったのも。
里親としての実務を、ほとんど私が担っている。
パートナーは仕事が忙しいから、という理由で。
最初からそういう役割分担だったから、という理由で。
でも彼女が笑いかけるのは、パートナーのほうだ。
水の音がキッチンから聞こえていた。
皿が重なる音。
パートナーが鼻歌を歌っていた。
その音が、じわじわと耳の奥に入り込んできた。
「ねえ」と私は言った。
「ん?」
「なんで私には笑わないんだろう、あの子」
パートナーが振り返った。
泡のついた手のまま、少し考えるような顔をした。
「そう? 気のせいじゃない?」と言った。
気のせい。
また、その言葉だった。
「気のせいじゃないと思う」と私は言った。
声が少し硬くなった。
自分でもわかった。
「じゃあ、もっと一緒に遊んであげれば?」
その一言で、何かが切れた。
遊んであげれば。
私がやっていることは全部、家事と世話で、それは「遊び」じゃないから数に入らないということか。
LGBTのカップルが里親になるとき、支援員さんに「役割を決めすぎないように」と言われた言葉を、今さら思い出した。
同性愛のカップルには「どちらが母親か」という外からの問いが来ることがある、だから内側では対等でいてほしい、と。
対等。
今の私たちが、対等に見えるだろうか。
口論は長くなかった。
パートナーが「ごめん、言い方が悪かった」と言って、それで終わった。
私も「こっちこそ」と言った。
仲直りの形をした、終わり方だった。
夜、布団の中で目を開けたまま天井を見ていた。
怒りの本当の理由が、里子なのか、パートナーなのか、それとも里親になると決めた自分自身なのか、もうわからなかった。
ただ胸のあたりに、冷たくて重いものが、ずっと乗っかっていた。
隣でパートナーの寝息が聞こえた。
規則正しい、穏やかな音だった。
私はそれを聞きながら、まだ目を閉じられなかった。